保育というお仕事を心から愛している加藤博子さんは、40歳を過ぎて大学で学び直し、その後大学院まで進まれた努力家です。この経験をもとに、現在は「大学講師」「子育て支援員・保育者の育成」「新しい園の立ち上げと改革」とまさに3つのわらじを履き、多くの方に頼りにされています。
時代とともに保育園・幼稚園の課題は変わりますが、その中でポイントを見極めながら、常に自らもアップデートされている加藤さんに、この仕事の素晴らしさと、笑顔の源を伺いました。
大自然の中で、
思いっきり
遊んだ保育園時代
出身は岐阜県の中津川市。大自然に囲まれて思いっきり遊べる保育園が大好きでした。園長も先生方も気持ちに寄り添ってくださる方ばかりで、その頃から、憧れの保育者モデルのイメージが出来上がっていました。今でも全員の名前を憶えているほどです。
生まれて初めての友達「しんちゃん」の存在も大きかったです。脳性麻痺だった彼とは、話すことも目を合わせることもできませんでしたが「心と心で会話をする」ことを教えてくれました。
私は、大自然の中でのびのびと遊び、友達との関わり方を学びました。保育の世界では「非認知能力/心の知能指数(EQ)」と呼びますが、これは幼い頃に主体的に遊びこむことで養われます。
2018年改訂の「保育所保育指針」「幼稚園指導要綱」では「遊びこむことで、子どもの心を育む」という教育が再注目され、ようやく、私が大好きだった頃の幼児教育が世に出てきたと思いました。
大きな影響を与えた
悲しい出来事、
そして再起
短大の保育科へ進み、卒業後は5年間幼稚園で勤務して結婚退職。娘も生まれて幸せな反面「社会に取り残された…」と感じたのも事実です。
ある日、1歳になった娘と病院に行った際、託児所の存在を知った私は、縁あってそこで娘を連れて働くことになりました。フルタイム勤務になった時は、同居していた義母が「いつでも頼ってね」と。編み物の会社を営むいわゆる起業家ということもあり、心強い応援が嬉しかったです。
こうして順調と見えた私に、辛い出来事が襲いました。それが、託児所から転職した保育園で、担任の園児が母親の虐待を受けていたことでした。
家庭訪問を重ねて精一杯対応しましたが、悲しい結果となりました。大きな事件として扱われ、連日のマスコミからの取材で私は出勤できなくなり、退職することになりました。
心を閉ざし1年以上が経ったある朝、新聞を見ていた私は、「保育専門学校教員募集」という文字を見つけます。その求人広告はまるで輝いているように見えました。
「そろそろ進みなさいと背中を押されたのかも…」と感じた私は早速応募。奇遇にも、現在勤める大学の礎となった学校に再就職しました。
当時の専門学校はとても元気な学生が多かったのですが、向き合って話すと素直で優しい子ばかり。未だにやり取りしたり、指導の側で活躍したりしている子もいます。
こうして若い学生からパワーをもらった私は、みるみる元気になりました。
40歳から大学へ。
さらに大学院へ進学
次の転機は40歳の時。新しい知識を得たいと、大学で学び直すと決めたのです。通信制大学のはしりで、名古屋に居ながら学べ、助かりましたね。
最初こそ年齢が気になりましたが、年下の同級生や講師陣から「現場に基づいた話を一番聞きたかったのです!」と言われ、お役に立てたことが嬉しかったです。そこから、次は大学院に進みました。
世間では学歴が大事とされますが、私は「最新学習歴」こそが重要だと思います。更新することに価値があると思うのです。
それに共感してくれたのか、最近、娘婿が大学院に通い始めました。学ぶのに遅いということはありません。そして主体的に学ぶことは、大人だからこそ楽しいのだと思います。
大人も子どもも関係なく、
人間の良さを引き出す
「言葉の力」
待機児童が多かった2010年代。企業の参入が増えて経営にばかり目が行き、保育士の質が問われるようになりました。現在も厚労省経由で育成に関わっていますが「心のゆとり」「受容」「言葉がけ」で、大人も子どもも変わると痛感しています。
例えば「帽子をかぶらないと遊べませんよ」ではなく「帽子をかぶると楽しく遊べるよ」と言う。また、園の改革では、挨拶の前に保育士の名前を添えるだけで、関係性が一変しました。人は、言葉かけや少しのゆとりで、本来の良さを取り戻すのです。
成長する子どもの瞬間が毎日見られる「保育」は、本当に素晴らしい仕事。また、自身の生育歴を振り返る学びにもなります。環境も親も周りの人も、今の自分を作っている大切な存在だという「気付き」もくれるのです。
今後は、主体性を大切にした、一人ひとり丁寧に関わる園が必要になると思います。
例えば、一斉に給食や着替えを行うのではなく、各自の生活リズムやタイミングで見守る保育が大切になります。このように時代の流れを読みつつ、子ども・職員・保護者様とともに良い環境を作り、必要とされる場所でお役に立つことが私の目標です。
好奇心とときめきが、
美と健康を作る!
60歳の節目をきっかけに、「医療的ケア」を必要とする施設の立ち上げに関わり、8月に無事開園します。
新規設立では人材を仲介会社にお願いすることが多いのですが、今回は職員全員ご縁だけで繋がり、周りからは「奇跡」と言われました。音楽が大好きな私が、遊びに行ったライブで音色に引き込まれて話した演者さんが偶然看護師で、直接スカウトしたことも。「人は宝」だとしみじみ感じます。
6 月からは助成金をいただき「カラオケ昭和歌謡サロン」も開始。全ての健康はお口からですし、昭和歌謡を歌ってその時代を回顧することは、脳への刺激にもなります。
モノやお金はなくなりますが「知識はなくならない」が私の持論。もともと好奇心は旺盛ですが、学ぶという行動と、その先にある可能性を想像するとわくわくします。
「美と健康」も同じで、好奇心旺盛にときめいて過ごすことが一番! 講師の仕事も大好きですし、歌も大好き。これからもいろいろな年代の方々と積極的に関わり、たくさんの「わくわく」を感じて、自分を磨いていきたいですね。
【加藤さんの
MDNA SKIN
お気に入りアイテム】
今日は、MDNA SKINリジュビネーターセットでお手入れして撮影に臨みました。ReFaの美容ローラーは、初代のものから6種類を使い分けて愛用していて、ヘアブラシにシャワーヘッドと選べないくらいです!
- 加藤 博子 かとう ひろこ
- 保育園立ち上げ・改革師/大学講師
- 保育士キャリアアップ研修講師(厚生労働省)/児童発達支援管理責任者
岐阜県中津川市出身、愛知県名古屋市在住。
桜花学園名古屋短期大学保育科卒業後、幼稚園教諭へ。現場から一時離れるも、専門学校で保育専任教員として再スタート。40歳を過ぎて大学、大学院へと進学しながら、名古屋市の保育園4園、春日井市の新設保育園の立ち上げ・監修を担当。
2024年8月には医療的ケア児施設を開所予定。
行政はじめ認可保育園や幼稚園などで職員研修。金城学院大学、東海学園大学、一宮市立中学校、PTA協議会、子育て支援センターなど多数で講演活動。
書籍に「保育における感情労働~ 保育者の専門性を考える視点として」(北大路書房/共著)など。
インタビュアー/ライター 増田 有香(綴屋 https://tsuzuriya.jp/)
撮影 臼井さや香(IMA photography http://jotatu.jp)